Steven Kwan スティーブン・クワン

2025年3月31日にKONAMI MLB PRO SPIRITでの大谷セレクションという企画の一環で、大谷選手がMLB現役選手の中から、強烈な印象を持った選手や、尊敬するチームメイトなど6名(投手3名、打者3名)を選出し、その選手について語るという貴重なインタビューがありました。

せっかくなので、本ブログでもその動画内の打者を取り上げて、詳細を見ていこうと思います(1人はムーキー・ベッツ選手ですでに取り上げています)。

まずは、クリーブランド・ガーディアンズのスティーブン・クワン選手。2023年のWBCでは日本代表に入るかもなんていう報道もあった通り、日本にルーツがあります。

WBC日本代表入りの誘いは前年の9月のエンゼルス戦前に大谷選手からあったそうで、本人も快諾していたとのことですが、残念ながら出場は認められませんでした。

このブログではTV中継のバッテリーの攻防をより面白いものに感じられるような情報を提供します。

目次

概要

約173cmと非常に小柄な体格ながら、3割近くを維持できる巧打者で、史上初のルーキーイヤーから3年連続ゴールドグラブ賞を受賞し、スタットキャスト上でのランニング指標はMLB平均を大きく超えるなど、走攻守で高いパフォーマンスを発揮できる選手です。

プレースタイルは憧れの選手と言っているイチローさんに似ています。自分の持っているものを最大限に引き出すという姿勢もそっくりですね。

典型的なコンタクトヒッターではあるのですが、2024年は過去2年よりも.OPSが大幅に向上するなど、長打を増やす意図を感じました。

打率本塁打打点出塁率OPS+OPSBB%K%盗塁
.2921444.368.7931259.8%9.4%12

カウント別

MLB打者の平均的傾向 2ストライクでの打撃成績は打率・出塁率・長打率すべてで急降下

  • 各ストライクでの打率/出塁率/長打率
    • 0ストライク .336/.390/.577
    • 1ストライク .326/.391/.538
    • 2ストライク .168/.244/.264

クワン選手の傾向をまとめると下記の通りです。

  • 初球スウィング率が非常に低く、ボール球にも手を出してこない。
  • キャリア通じて右投手のスプリット、左投手のチェンジアップが苦手。
  • 苦手なコースはほどんどなく、しかも空振り率も低い。
  • 0-2カウントでの打撃成績が非常に高く、0ストライクはやや低め。

コンタクト能力が高い安打製造機タイプの打者は、どんなボールにも反応できることもあって、四球率がそれほど高くならないケースがよく見られるのですが、クワン選手はボール球スウィング率がMLBで6位(2024年規定打席到達者中)とボール球には手を出してきません。

結果、打率、四球率の双方を高水準で維持できる希少な打者となっており、チームもじっくり相手投手を観察できる点でも、理想的な1番打者ですね。

打率と四球率の双方を維持できるアベレージヒッターというと、筆者が見てきた中では、ジョー・マウワーさんがベストだったように思います。あとは、ジョーイ・ボトーさんですかね(ただ、ちょっとスラッガータイプも入っているか)。

2024年は少し差があった(対左投手の方がよい)ものの、基本的には投手の左右によって成績に変動はありません。

総合的に考えていくと、右投手のスプリット、左投手のチェンジアップを中心に攻めていくのが基本的な戦略になります。初球は待ち傾向があるので、ファーストストライクを取ってストライク先行の形を作りたいところ。

空振り率が低い、かつ、2ストライク打率も高い(.247(2024年))ので、三振を取るのは非常に難しい。そうすると、際どいコースを狙ってピッチングの幅を狭めるくらいなら、内野ゴロなどで打ち取ることを考えた方がよいでしょう。

スウィング

MLB.comが提供するスタットキャストに2024年5月に追加された「バット・トラッキング」から抜粋しています(用語の説明は別途)。

順位が高いほうがよいものももちろんありますが、各選手のスウィングの個性が現れます。

スウィングの個性が現れた例

大振りパワーヒッターの典型であるスタントン選手とこれまた安打製造機の典型であるアライズ選手の比較がこちら。

スウィングにパワーを持たせたいスタントン選手は平均バット・スピード、ファスト・スウィング率(75マイル/h以上のスウィング)でMLBトップの数字であるが、コンパクトなスウィングでバットの芯(スウィートスポット)に当てることに長けたアライズ選手はなんと平均バット・スピード、ファスト・スウィング率でMLB最下位。

一方、どれだけ芯に近い場所で打つことができたかを示すスクエア・アップ率はアライズ選手がMLBトップで、スタントン選手はMLB平均以下。

ちなみに、ボールに当たるまでのスウィングの距離を測る「スウィング軌道距離」でも、スタントン選手がMLB最長、アライズ選手がMLB最短と両極端な個性が指標から読み取れます。

平均バットスピードファストスウィング率スウィング軌道距離スクエアアップ率
スタントン81.3m/h98.7%8.6ft20.8%
アライズ63.2m/h0.3%6.0ft43.9%

クワン選手のスウィングは、パドレスのアラエス選手と同じく、コンタクトヒッターの典型例と言える数値を示しています。芯に当てる能力が高く、良質なライナーを打ち込んでいることがわかります。

スウィング数値の傾向が非常に似ている両打者ですが、打てると思ったボールはボールゾーンでも打っていくアラエス選手とボールゾーンには徹底的に手を出さないクワン選手と、打席でのアプローチは対照的です(その結果が、四球率や三振率といったところに現れてきます)。

2024個人MLB順位MLB平均
平均バットスピード64.4m/h21271.5m/h
ファスト・スウィング率0.4%21322.5%
スウィング軌道距離6.5ft2107.3ft
スクエア・アップ率38.6%225.0%
ブラスト・スウィング率5.8%20210.3%
バレル率2.6%124-

詳細データ

上に書いた内容のエビデンスデータを記載しています。
このデータを使って、「自分だったらどの球種、どのコースで取るか」を考えていただくのも野球の1つの楽しみ方だと思います(もちろん走者の数や投手の持ち球によって変わりますけどね)。

カウント別詳細

個人

カウント別打率出塁率長打率OPS
初球.273.273.394.667
1-0.306.324.500.824
2-0.188.188.375.563
3-01.000
0-1.387.397.6611.058
1-1.351.362.421.783
2-1.353.353.529.882
3-1.333.706.5331.239
0-2.405.405.514.919
1-2.211.211.282.493
2-2.183.206.282.487
3-2.271.546.354.900

MLB平均との差

平均との差打率出塁率長打率OPS
初球-.060-.071-.166-.238
1-0-.032-.019-.083-.101
2-0-.156-.159-.257-.417
3-0--+.056----
0-1+.062+.063+.148+.211
1-1+.030+.035-.104-.068
2-1+.022+.019-.043-.024
3-1-.006+.007-.091-.084
0-2+.257+.248+.293+.541
1-2+.047+.040+.034+.074
2-2+.013+.029+.013+.042
3-2+.080+.093+.026+.120
コース別詳細

対右投手

対左投手

球種別詳細
球種打席数打率長打率wOBA空振り%K%
4-Seam Fastball191.350.537.4314.55.2
Sinker99.330.455.3824.88.1
Slider65.179.321.28017.920
Changeup70.212.273.2668.77.1
Cutter34.323.452.3695.18.8
Curveball38.297.351.29715.410.5
Sweeper21.300.450.34312.914.3
Split-Finger17.118.118.10615.423.5
Slurve21.0002.0001.25000
Knuckleball2.000.000.0005050
Screwball1.000.000.00000
データ参照先

「カウント別詳細」のデータは baseballreference.com を参照しています。
「コース別詳細」および「球種別詳細」のデータは baseballsarvant.mlb.com を参照しています。

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